買い物の手段の一つとして認知されたといってもいいeコマースですが、今後、さらなる躍進を遂げるにはどういった戦略を立てる必要があるでしょう?
今回は日本国内におけるeコマースの現状と、今後の展望について解説します。
分野別でみるeコマースの市場規模
経済産業省では市場規模を正しく把握するため、eコマースについて物販・サービス・デジタルの3つの分野に分けて調査を行っています。
それぞれの分野について市場規模をみていきましょう。
物販
物販分野にはPC・生活家電・食料・飲料・化粧品・書籍など、物品として購入するアイテムが分類されています。
企業から個人へ販売を行う「BtoC-EC」全体のうち約半数を占めるのが物販分野です。
コロナ禍によってAC機器や家電製品などの躍進が目立ちました。
サービス
旅行・飲食・保険・医療・チケット販売など、物品でなくサービスを商品として購入するアイテムが分類されるのがサービス分野で、「BtoC-EC」全体の37%を占めています。
サービス分野をけん引しているのが飲食と理美容カテゴリです。
予約サイトの登録店舗数が伸びたことによって“予約サイトで予約してから訪れる”といった行動パターンが一般的となりました。
デジタル
音楽配信・動画配信・電子書籍・オンラインゲームなど、デジタル配信されるアイテムが分類されるのがデジタル分野です。
これまでデータ容量に制限のあった携帯電話の料金プランに上限設定なしのものが出始めたことから、音楽や動画の配信カテゴリが大きく躍進しました。
「BtoC-EC」全体では11%ほどと、大きな市場ではありませんがEC化率は増加傾向にあります。
日本企業はEC化に消極的?
その分野・カテゴリにおけるすべての商取引市場規模(商取引金額)に対するインターネット商取引規模の割合をEC化率といいます。
経済産業省による調査では日本のEC化率は2019年度時点で6.76%でした。
EC化率トップの中国の36.6%、次いでアメリカの11.0%と比べるとかなりの低さであることがわかります。
日本でEC化が進まない理由として挙げられるのが市場規模の大きい業界のEC化の遅れやEC事業自体に消極的な企業が少なくないことなどがあります。
「化粧品・医薬品」カテゴリは伸びしろがある?
EC化率6.0%と非常に低い数字の「化粧品・医薬品」カテゴリですが、これまでは薬事法などの絡みもありある意味仕方のない結果といえます。
しかし、2014年の法改正により、一部の医薬品がインターネットでも購入可能となりました。
これにより、医薬品もECで購入することが定番化すれば主戦場となれるチャンスがあります。
また、対面・訪問・カタログと多くの販売スタイルを持つ化粧品も口コミサイトなどの充実によりECサイトでの購入が増えてきています。
「食品・飲料・酒類」カテゴリはEC化が難しい?
日本国内のリアル・ネットすべての物販分野で最大の市場規模を誇るのが「食品・飲料・酒類」カテゴリですが、そのEC化率は2.89%と非常に低いです。
この数字の低さは分母が大きすぎるためとの見方をされています。
確かに、鮮度が重要視される食品はスーパーやコンビニなどの実店舗と競争するのが難しいです。
しかし、コロナ禍によって外出を控えるようになってからはネットスーパーの登録会員数が飛躍的に伸びました。
また、1食に必要な分だけのレシピと食材が定期配達されるミールキットなども注目を集め、市場規模を拡大しつつあります。
今後「食品・飲料・酒類」カテゴリでは、単なる一過性ではないEC化の普及がカギとなるでしょう。
海外ユーザーからは人気の高い日本のeコマース
EC化に消極的な日本企業が多いものの、日本のeコマースは海外ユーザーに人気があります。
国境を越えて行うeコマースを「越境EC」と呼びますが、日本の越境ECを利用している国別にその売上額を見てみると、中国では約1.6兆円、アメリカで0.9兆円とその規模の大きさがわかります。
越境ECの一番のメリットは比較的簡単に商圏を広げられる点です。
EC化率の高い中国やアメリカでは日本の5倍以上もの規模のEC市場があり、上手く認知度を上げられればさらなる売上アップが見込めます。
実際に、中国では利用することの多い越境ECサイトで日本を挙げる人が多く、購入品はスキンケア用品やメイクアップ用品などのコスメや食品、マンガやアニメといったものの人気が高いようです。
いずれも日本国内ではあまりEC化率の高くないものばかりのため、越境ECにはまだまだビジネスチャンスが眠っているといえるでしょう。
越境ECでは、実店舗を出店するのと違い、スタッフを雇い入れたり、店舗ごとに商品確保をしたりしなくていいので、積極的に越境ECに取り組む企業も少なくありません。
ただし、越境ECは為替変動や法規制の影響を受けやすいのである程度の知識や情報収集が重要になってきます。
5Gの普及でEC事業はどう変わる?
日本国内でeコマースが浸透した大きな要因として、スマートホンの普及が挙げられます。
これまではECサイトを利用するにはPCが必要だったため、利用者が限られていました。
経済産業省の調査でもスマートホン経由でのEC取引額は増加を続けており、EC市場拡大に大きく貢献しています。
1人1台が当たり前となったスマートホンの普及率は鈍化していますが、新たに運用開始となった第5世代移動通信システム(5G)によって大きな動きがあると期待されています。
5Gとは?
そもそも5Gとはどんなもので、何ができるのでしょうか?
5Gの大きな特徴は以下の3つです。
◎高速大容量通信が可能
◎低遅延で信頼性の高い通信が可能
◎多数の機器に同時接続が可能
5Gの運用開始により、スマートホンに限定されずあらゆる機器や端末が接続連携され、遅延のない高速大容量通信が可能になります。
eコマースはもちろん、多くの産業でデジタルシフトが行われると期待されています。
5GでEC事業はどう変わる?
eコマースが盛んな中国では多くのECサイトでライブコマースが行われています。
ライブコマースとは、動画配信によるテレビショッピングのようなもので、配信者と視聴者がリアルタイムでやり取りが可能です。
着用感や使用感など、視聴者の質問に対して配信者が説明を行うことで購入につなげられると評判の手法です。
5Gであればあらゆる機器が遅延なく同時接続可能なので、多くの視聴者が参加できるようになります。
コロナ禍はeコマースにどんな影響を与えた?
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大によりeコマース業界はどのような影響を受けたのでしょうか?
まずは利用者の急増です。
緊急事態宣言中は外出自粛が求められ、ECサイトで生活用品の購入をする人が増えました。
新規利用者が通常の3倍以上も増えたサイトもあります。
食品や生活用品はもちろん、家で過ごす時間が長くなったことで酒類や楽器、音響機材なども軒並み売上を伸ばしました。
また、テレワークなどの導入によりデスクやイスなどのインテリア用品も大きな売上を上げています。
ここで注目なのが、コロナ禍でもECサイトの利用はスマートホン経由が大半だったことです。
PCのある自宅にいても、すぐに操作ができるスマートホンの方が使い勝手がいいということでしょう。
しかしこれは、モバイル版サイトの整備をしっかり行った企業努力の結果とも取れます。
コロナ禍によって急増した利用者が今後どれだけ残るのか、さらなる企業努力が問われます。
まとめ
今回はeコマース業界の現状や今後についてご紹介しました。
日本国内のEC市場は拡大傾向にありますが、分野によってはさらなるビジネスチャンスが望めるでしょう。
EC化率の高い中国やアメリカに比べると日本はまだまだ発展途上と言わざるを得ませんが、越境ECにはリスクも伴うため展開するにはしっかりとした準備が必要です。
コロナ禍によって思いがけず躍進を遂げたeコマース業界ですが、生き残れるのは時代の変化に応じた素早い動きが取れる企業だけだと肝に銘じる必要がありそうです。
コラム筆者
ECコンサルタント・アドバイザー
安田昌夫
- 東京都出身1984生まれ
- ECサイト運営歴10年で広告費をかけずに45万PVを達成
- 適切な集客・広告運用のサポート・無駄な広告費をカットするためのアドバイスを得意とする
- 月商1200万円突破