中国のEC市場は日本の10倍以上ともいわれ、参入が成功できれば販路拡大のチャンスとなります。
しかし、中国は様々な事情から独自の市場を形成してきました。
中国越境ECを検討する場合は、それらの事情を正しく理解する必要があります。
ここでは、中国EC市場の特徴や参入成功のポイントを解説していきます。
そもそも越境ECとは?
越境ECとは、国境を越えた国際的なECサイト上の取引のことをいいます。
日本では外出を自粛する中で、欲しい商品を実店舗に代わりECサイトにて購入する人が増えました。
しかしそれは日本に限ったことではなく、海外旅行を自粛することで入手できなくなった日本製品をECサイトで購入しようとする動きが活発になり、越境ECは拡大の一途をたどっています。
経済産業省が発表した「電子商取引に関する市場調査の結果」では、2018年度の世界の越境EC市場は約75兆円(売上高推計値)で、2020年度には約110兆円(予測推計値)まで成長すると予測しています。
2018年度の国内BtoCにおけるEC市場規模が約18兆円であることからみても、非常に大きな市場であることがわかるでしょう。
日本・アメリカ・中国の3ヵ国に絞ってみると、日本の事業者に対するアメリカ・中国からの購入額はいずれも前年比7%以上の増加となっており、越境ECの拡大が続いています。
中国EC市場は世界最大規模を誇る
目覚ましい経済成長を遂げている中国は、成長のタイミングとインターネットの普及が重なったことでECサイトが広く浸透しました。
オンライン決済サービスである「Alipay(アリペイ)」や「WeChat Pay(ウィチャットペイ)」など、モバイル決済サービスの普及も手伝い、ECサイトの普及は加速します。
2019年には200兆円以上の規模となった中国のEC市場ですが、日本とは違った特徴がいくつかあります。
主流はECモール
世界最大規模を誇る中国EC市場ですが、実は自社サイトでの売上はそんなに多くありません。
中国では厳しいネットワーク規制がしかれているため、検索サイトの利用にも制限があります。
こうした特殊なネット環境であることから、ECモールでの商品検索が一般的となっているのです。
また、中国では世界で一般的に使われているTwitterやInstagramなどのSNSも利用できません。
利用できるのは「WeChat」というSNSアプリで、LINEと同じような機能を持ち、中国最大のSNSプラットフォームとなっています。
このWeChatに搭載された「ミニプログラム」という機能が、中国EC市場の拡大に一役買ったといわれています。
WeChatミニプログラムの特徴は、法人・個人にかかわらず誰でもWeChat内でECサイトやゲームなどのアプリの開発ができ、WeChat内でシェアできます。
そのため、WeChatユーザーはアプリをインストールすることなく使用できるのです。
WeChatにはモバイル決済サービスWeChat Payも搭載されているため、ワンストップで商品購入ができるという点も大きな特徴といえるでしょう。
大きな影響を与えるKOL
中国のEC市場に大きな影響を与えるのがKOL(Key Opinion Leader)と呼ばれるインフルエンサーたちです。
SNSで多くのフォロワーを持つKOLは、動画やライブコマースで商品を紹介し視聴者の商品購入に貢献してきました。
毎年11月11日に開催されるECモールイベント「独身の日」は、中国版ブラックフライデーとして定着したこともあり、毎年売上額を更新し続けています。
そこには当然KOLの活躍が欠かせず、1回のライブ配信で数億円を売り上げることも珍しくありません。
KOLの存在が浸透している中国では、動画やライブ配信を視聴してから商品を購入するという購買行動が一般的となっており、経済産業省の発表によれば、2018年のKOL経由での購入額は1兆5千億円を超えるとしています。
ジャンルとしては食品や飲料、衣料品や靴、化粧品や美容関連商品などが目立ち、「率直な感想が知りたい」「実際の装着感を知りたい」「使用感や発色を知りたい」といった主に女性の需要が高いことがうかがえます。
中国の越境ECに参入するには?
日本の事業者が中国の越境ECに参入するにはどうしたらいいのでしょうか?
ここでは3つの方法をご紹介します。
越境EC専門のECモールへ出店する
中国EC市場で圧倒的なシェアを誇るECモールは2つあります。
中国大手のIT企業アリババグループが運営する「Tmall」とネット通販事業大手のジンドンが運営する「JD.com」です。
しかし、両モールとも中国に法人を持たない企業の出店を認めておらず、越境EC専門のECモールを展開しています。
Tmallでは外国法人が出店できる「Tmall Global」を開設しており、Tmallと合わせると約7万のブランドと約5万もの出品者を抱える世界最大級のプラットフォームになっています。
また、JD.comが展開する越境ECモール「JD Worldwide」では実店舗も構えることで、ネットとリアルの両方で購入ができるバリューチェーンの構築にも注力しています。
パートナー企業に商品を卸す
中国に法人を持つ企業とパートナーとなることで自社商品の販売を行ってもらうという方法です。
こちらは商品を卸すだけなのでサイト運営の手間が省けます。
パートナーとなる企業が持つ知名度や集客力を利用できるため、自社で新たな販路の構築やブランディングの必要がありません。
海外進出には言語や習慣の違いなど、さまざまな課題がありますが、実際にその国で実績を上げている企業に卸すことでこれらもクリアできます。
ただし、パートナー企業の信用性やマーケティング戦略などの見極めが重要です。
個人オークションサイトに出品する
取り扱う商品がそれほど多くない、中古販売を行っているといった場合は個人のオークションサイトに出品するという方法もあります。
中国を代表する個人オークションサイト「タオバオ」では、入札で落札価格を決定するオークションの他に、固定価格で取引する方法もあるので事業者の参入は珍しくありません。
個人オークションであれば中国に法人を持たなくても越境ECに参入できますが、取引規模には限界があるということを頭に入れておく必要があります。
中国越境ECを成功させるポイント
中国EC市場は日本の10倍以上もあり、今後も成長が見込めるため、参入を検討する事業者も少なくないでしょう。
最後に、中国越境ECを成功させるポイントを解説します。
SNS利用がカギとなる
特殊なネット環境により、中国のSNS事情は日本とは大きく違います。
中国ではWeChatやTikTokなど、SNSによる集客が一般的です。
アカウント開設は基本的に無料なので、Webマーケティングのようなコストがかからない一方、言語対応は必須です。
また、KOLに依頼するという方法もあります。
コストはかかりますが、集客力は非常に高いので速効性があります。
決済手段は中国の基準に合わせる
日本のECサイトではクレジットカード決済や代金引換、銀行振込といった決済手段は一般的ですが、中国では違います。
モバイル決済サービスが主流となっている中国では、圧倒的なシェアを誇るAlipayとWeChat Payへの対応が不可欠です。
アリババグループが提供するAlipayは、モバイル決済サービスにおいて50%以上のシェアを持つといわれており、生活のさまざまなシーンで使われています。
WeChat Payは、前述のWeChatと連動した決済サービスであり、ネットとリアルのどちらでも利用可能です。
まとめ
中国越境ECについて、市場規模や特徴をご紹介してきました。
世界最大規模を誇る中国のEC市場は今後も成長が見込まれています。
新たな市場に参入すべく、すでに越境ECに乗り出した日本の事業者も少なくありません。
しかし、海外進出には風土や習慣の違いなども影響します。
特に中国ではネット環境が特殊であることから、日本のマーケティング戦略が通用しないおそれがあります。
中国越境ECを検討する場合は、越境EC専門のECモールに出店するなどの方法も選択肢に入れることをおすすめします。
コラム筆者
ECコンサルタント・アドバイザー
安田昌夫
- 東京都出身1984生まれ
- ECサイト運営歴10年で広告費をかけずに45万PVを達成
- 適切な集客・広告運用のサポート・無駄な広告費をカットするためのアドバイスを得意とする
- 月商1200万円突破